網膜色素変性症
20EYE DISEASE

目次
網膜色素変性症とは?
網膜色素変性症とは網膜の変性が原因で視覚機能が低下する疾患です。
網膜の変性によりさまざまな症状が引き起こされます。
症状の進行は緩やかで、数十年かけて悪化していくことも珍しくありません。
そのため年齢を重ねるにつれて症状が深刻化し、矯正視力が0.1以下となる例もあります。
ただし必ずしも視力の低下を伴うわけではなく、生涯に渡り視力が維持されることもあるため個人差が大きいと言えます。
発症頻度は高くなく、患者数は平成24年度のデータで27,158人とされていました[1]。
重症度はI度からIV度まで分けられており、II度以上の重症事例では特定疾患治療研究事業の対象となる指定難病です。[2]。
以上のように網膜色素変性症では網膜の変性が起こり、結果としてさまざまな視覚機能の低下が引き起こされます。
網膜色素変性症の原因
この疾患を引き起こす原因は遺伝子変異だと考えられています。
遺伝性の疾患であるため先天的な疾患の疾患です。
遺伝子の異常により視細胞に変性が起こり、通常よりも細胞の老化が早まるため外部からの光による刺激を受け取りにくくなるのが網膜色素変性症です。
目は錐体細胞と桿体細胞の2種類の視細胞により、光の刺激を信号へと変換して視覚として認識します。
しかし網膜色素変性症では桿体細胞が変性し、次に錐体細胞が変性することにより光を得にくくなり視覚機能が低下します。
ただし発症した患者さんのうち、半数ほどは明らかな遺伝的傾向は認められてはいません。
遺伝的傾向が認められる患者さんについては、染色体劣勢遺伝と常染色体優性遺伝、X染色体劣性遺伝を示します。
まだ未解明な部分がありますが、網膜色素変性症の原因は遺伝子の変異だとされています。
網膜色素変性症の症状
引き起こされる症状は人により異なりますが、主に次のような症状が両眼に現れて徐々に進行します。
症状1:夜盲
初期症状として、一般的によく見られるのが夜盲です。
変性により桿体細胞の機能が低下することにより、外部からの光を得にくくなり暗所での視力が低下します。
人の目はしばらく暗いところにいると、暗所に慣れて見えやすくなる暗順応が起こる仕組みです。
しかし夜盲になると暗順応が極端に遅くなり、夕方になると物にぶつかったり、転倒しやすくなったりすることが増えます。
反対に日中に過度に眩しさが感じられる場合もあります。
網膜色素変性症ではまず桿体細胞から機能が失われ始めることが多いため、初期症状として夜盲が現れます。
症状2:視野狭窄
夜盲と並び多く見られる症状が視野狭窄です。
初期症状として見られることもありますが、一般的には網膜色素変性症が進行した後に現れます。
視野の狭窄とは視界の一部分のみが認識できなくなることを指します。
視力は低下していないものの、視野の周辺が見えない、中央のみが見えない、足元だけが見えないなどが視界の欠損に当たります。
網膜色素変性症では視野の周辺のみが見えにくくなる症状が多いものの、他の部分に狭窄が起こることもあります。
視野狭窄が見られるようになると重症度分類ではI度からIV度のうちII度と扱われるようになります。
重症度分類からもわかるように、ある程度症状が進んだ後に頻繁に現れる症状です。
症状3:視力低下
網膜色素変性症がさらに進行し錐体細胞が障害を受けると、視力の低下が見られるようになります。
文字が読みにくい、視界がかすむなど、一般的な視力低下で現れる症状です。
ただし視力低下の度合いは個人差が大きく、症状の進行が早ければ40代で矯正視力が0.1以下まで下がることもあります。
反面、ほとんど視力が低下しない患者さんもいらっしゃいます。
また一般的には進行後に現れる症状とされていますが、中には夜盲より先に視力低下が見られることもあり一概には言えません[3]。
症状4:色覚異常
色覚異常は一般的に視力低下と同時期に現れる症状とされています。
色覚異常も視力低下とともに、錐体細胞の異常により引き起こされるため同時期に発症する傾向です。
錐体細胞には3種類があり、それぞれ赤・緑・青の波長に反応する物質を持っています。
いずれかの錐体細胞が障害を受けると、対応する波長の色が識別不可となります。
青の波長に反応する錐体細胞の数は赤・緑に反応する錐体細胞の数より少ないため、初期段階で認識しづらくなるのは青色とされます。
視力の低下と同時に、青色の判別が難しくなる症状が見られるようになります。
詳しくは、こちらの「色覚異常の原因・症状と治療方法」の記事をご覧ください。
症状5:光視症
光視症も網膜色素変性症の後期に現れる症状のひとつです。
網膜が眼球の硝子体に引っ張られる際に、刺激が間違って感知され、光と認識されることで生じます。
実際には存在しない光が一瞬、視界の端に走ったように感じられるため眩しさが感じられるようになります。
詳しくは、こちらの「急に目に光が見えた際の原因や想定される病気の可能性と対処法」の記事をご覧ください。
症状6:羞明
羞明とは光視症と同じく、眩しさが感じられるようになる網膜色素変性症後期の症状です。
ただし羞明の場合は存在しない光が見えるわけではなく、実際に存在する光が異常に眩しく感じられます。
日中の通常の明るさでも目を開けていられないほど眩しく、遮光眼鏡で光を軽減しなければならないほどです。
網膜色素変性症の治療方法
網膜色素変性症では、未だ治療法が確立されていませんが、遺伝子治療・人工網膜・網膜再生・視細胞保護治療について研究がなされており、神戸アイセンター病院にて臨床研究や治験が実施されています[1]。
治療1:薬物療法
網膜色素変性症の代表的な治療法が薬物療法です。
根治治療ではありませんが、症状の進行を遅らせるために効果が期待されます。
頻繁に用いられるのがビタミンA製剤です。
ビタミンAには光の感受性を維持させる働きがあります。
この疾患を発症している方でなくとも、ビタミンAが欠乏すると夜盲や羞明などの症状が現れ始めるため[4]ビタミンA製剤は重要です。
暗順応を改善させる薬剤であるアダプチノールも、夜盲の症状に効果的として一般的に処方されます。
また眼への血流を改善させるため、血管拡張作用を持つ循環改善薬が処方されることもあります。
治療2:遮光眼鏡・ルーペ・補助器具の活用
遮光眼鏡やルーペ、補助器具などの活用も推奨されます。
視力低下や羞明の症状が見られるようになると、日常生活に支障が現れます。
遮光眼鏡やルーペの活用は日常的な眩しさを軽減させ、低下した視力を補うことが目的です。
また本や新聞のページをテレビの画面に大きく映し出す拡大読書器も視覚の補助として役立ちます。
遮光眼鏡や補助器具を活用する治療は「ロービジョンケア」と呼ばれる代表的な治療法です。
特に遮光眼鏡は網膜色素変性症の方にとって、視細胞を保護するためのものともなるため十分に活用しましょう。
治療3:網膜シート移植手術
日本国内で網膜色素変性症の患者さんに、網膜シート移植手術を行った事例があります。
令和2年10月上旬、神戸市立神戸アイセンター病院で実施されました。
移植手術では他人由来のiPS細胞から網膜シートを作製し、変性・消失した視細胞に移植したとのこと[5]です。
ただし網膜シート移植手術はまだ経過の観察期間中であり、研究の進捗は随時発表される見込みです。
現時点では一般的な治療法とは言えませんが、今後が期待されます。
進行を遅らせるための治療がメイン
網膜色素変性症とはどのような疾患か、原因や症状、治療法といった内容について紹介しました。この疾患の治療法は未だ確立されておらず、進行を遅らせるための対症療法がメインです。
参考文献
参照:日本医療研究開発機構:「網膜色素変性に対する同種(ヒト)iPS細胞由来網膜シート移植に関する臨床研究」の1例目の移植手術の実施について