甲状腺眼症の原因・症状と主な治療法 | 明石の田村眼科|日帰り白内障・硝子体・涙道再建・緑内障・眼瞼下垂手術

医療法人瞳潤会 田村眼科

甲状腺眼症

22EYE DISEASE

明石イメージ

甲状腺眼症とは?

甲状腺眼症とは、自己免疫疾患により後眼窩組織に炎症が起こる疾患です。

甲状腺機能亢進により引き起こされるバセドウ病や、反対に甲状腺機能が低下する橋本病の合併症としてよく見られます。

バセドウ病の患者の25~50%、橋本病の患者の2%において甲状腺眼症が引き起こされると言われています。

この疾患が引き起こされると、ミュラー筋・上眼瞼挙筋・外眼筋に加え、脂肪組織や涙腺への炎症が起こります。

また、炎症に伴いさまざまな症状が現れ、生活の質が著しく低下しやすくなる可能性があります。

以上のように甲状腺機能や自己免疫の異常により、炎症が起きる疾患です。

甲状腺眼症の原因

すべての原因が解き明かされているわけではありませんが、主に次のような要因で引き起こされると考えられています。

原因1:免疫異常

大きな原因のひとつとして、甲状腺で起きる免疫異常が挙げられます。

さまざまな症状が発生する主な原因だと考えられているのが、免疫異常により、後眼窩組織にリンパ球が集まることによる炎症です。

眼球が収まっている眼窩の中で炎症が引き起こされることにより、周辺で循環が低下して症状が出てきます。

バセドウ病の合併症として発症しやすい疾患であることからもわかるように、甲状腺眼症の大きな原因が免疫異常です。

原因2:遺伝

遺伝的因子が原因とも考えられています。

遺伝により引き起こされるとのエビデンスは、まだ十分ではありません。

しかしHLA遺伝子、TSH受容体、IL-23受容体などの遺伝子が発症と関連するとの報告があります。

まだ研究段階であり断言することはできませんが、遺伝的要因で引き起こされる可能性も考えられます。

原因3:喫煙習慣・環境

喫煙が原因となって甲状腺眼症に罹患するとの報告もあります。

タバコの煙の中に含まれる化学物質が、甲状腺機能や免疫反応に影響を及ぼす可能性があると考えられるためです。

喫煙習慣や副流煙を吸入しやすい環境などがこの疾患を引き起こす原因である可能性もあります。

甲状腺眼症の症状

この疾患であらわれる症状はさまざまですが、主に次のような症状が強く出てきます。

症状1:眼球突出

頻繁に見られる症状は眼球突出です。

眼球突出とは眼窩の中から、眼球だけが前方に飛び出る症状のことを指します。

免疫異常により後眼窩組織に炎症が起きると、眼球が収まっている眼窩の中で組織が腫れます。

すると腫れた組織により眼窩の中が詰まった状態になります。

眼窩内の圧力が高まった結果、眼球を前方に突出させて圧力を逃がそうとするため眼球突出が発生します。

症状2:眼瞼浮腫

瞼が腫れる眼瞼浮腫も、眼球突出と並び一般的な症状とされます。

眼瞼浮腫が起きる原因は、眼窩の中で組織が腫れて圧力が高まることが原因です。

眼球突出は眼窩の圧力を下げるために生じますが、眼球を突出させてもなお圧力が下がっていかないことがあります。

すると眼窩の周りの循環が悪くなり、瞼にむくみや腫れが出てきます。

症状3:眼球運動障害

眼球運動障害が症状のひとつとして引き起こされることも少なくありません。

眼球運動障害とは、眼球を正常に動かしにくくなる症状のことです。

眼球を動かす筋肉である外眼筋は、上下にそれぞれ2本ずつと、左右に1本ずつの合計6本で形成される筋肉群です。

6本の筋肉は眼球を動かすために伸縮する仕組みですが、炎症により外眼筋が傷つくと筋肉は伸びなくなります。

伸縮が行えなくなる外眼筋は炎症が起きた部位により変化するものです。

そのためどの方向に動かせなくなるかは個人差があります。

しかし、眼球運動障害が多くの場合で症状として出てきます。

症状4:複視

この疾患の視覚機能への症状としては、複視が挙げられます。

複視とは物が二重に見える視覚異常のことです。

複視が起きる主な原因は、1つ前の項目で解説した眼球運動障害です。

右目と左目は独立した視野を持っていますが、通常であれば左右の目が見ている2つの視野は1つに重なります。

しかし眼球運動障害により左右の目を思う通りに動かせなくなると、右目と左目の視野に差異が生じ複視となります。

複視が起きる機序は以上のとおりですが、甲状腺眼症で比較的よく見られる症状です。

 

複視については、こちらの「物が重なって見える際の原因や想定される病気の可能性と対処法」の記事でも詳しく解説しております。

症状5:視力低下

症状として急激な視力低下が起きることもあります。

視力低下も眼窩内の圧力が高まることが原因です。

組織の腫れにより眼窩内圧が高まり、そのまま十分に下がりきらないと視神経が圧迫されてしまいます。

すると視神経への障害が原因となり視力が低下します。

眼球突出により眼窩内圧が下がれば、視神経の圧迫を回避でき視力低下につながらないことも考えられます。

甲状腺眼症の重症度分類においては、軽度の障害では視力0.3~1.0未満とされますが、高度の障害では0.1未満となっています。

甲状腺眼症の治療方法

この疾患の治療法は病態に応じて変わりますが、一般的には次のとおりに治療を進めます。

治療法1:免疫抑制療法

免疫抑制療法は中等症から重症例の甲状腺眼症に対して行う治療法です。

内服薬による治療法と、ステロイド・パルス療法と呼ばれる点滴でステロイドを投与する方法の2種類があります。

免疫抑制療法では免疫を抑える作用を持つステロイドを用いて、外眼筋の炎症を軽減させることを目的とします。

 

あらわれる症状としては、炎症により引き起こされるものが多いため、重症化を抑えるために効果的です。

しかしステロイドには消化性潰瘍や骨粗鬆症、耐糖能異常、肝炎、心停止などの副作用が起きる可能性があります。

中等症から重症例、最重症例に対して効果的な治療法ではありますが、副作用に関して十分に理解しておく必要があります。

治療法2:放射線照射療法

放射線照射療法は、中等症以上の甲状腺眼症で採用される治療法です。

またステロイド・パルス療法が完了した後に、症状再発を予防するために実施されることもあります。

放射線照射療法は眼窩組織に入り込んだリンパ球を破壊することを目的として実施されます。

35歳以上でなければ適応できず、網膜症がある方は受けられません。

その他、糖尿病や高血圧のある方では網膜症のリスクが高まることから慎重な判断が必要です。

ただし免疫抑制療法と比べて重度の副作用リスクがなく安全性が高い治療法と言えます。

即効性は低く、治療は1~2ヶ月程度の期間を要します。

眼球突出への改善効果は低いものの、眼瞼浮腫、外眼筋肥大、視神経症への効果が高いとされています。

進行を遅らせるための治療がメイン

甲状腺眼症とはどのような疾患か、原因や症状、治療法なども含めて紹介しました。

症状の進行を遅らせるための治療がメインであるため、適切な医療機関にて、病態に合わせた治療法が選択される事となります。